2012/09/21

西端真矢:中国・反日デモ暴徒化の背景~基礎から解説

1万字以上の長文です。



中国・反日デモ暴徒化の背景と、日中関係の今後~~最も基礎から解説! 
2012/09/18  http://www.maya-fwe.com/4/000233_J.html


中国で連日強烈な反日暴力行動が続き、多くの方から意見を訊かれるので、このブログにまとめてみたいと思います。

もちろん、ネット上には既にたくさんの中国政治専門家の方の解説が現れていますが、専門家だけに、「これくらいの基本背景は分かってるよね」という前提で書かれているものがほとんど。しかし友人たちと話していて思うのは、多くの日本人はこれまで「あの国って何となくうさんくさい」と、中国に関わるのを避けて生きて来たため、中国通の方から見ればごく基礎の基礎の、スーパーベーシックな知識も全く持ち合わせていない。だから、専門家の方々が易しく書いたつもりの解説を読んでも、いま一つ分からないまま終わる‥そんな状況が生まれているように思います。そしてそこから中国に対する新たな誤解や、間違った対処法も生まれてしまうように思うのです。

そこで、私のブログでは、アホらしいから専門家は書かない最も基本的なところから始めて、現在の過激デモがどうして生まれたのか、そして今後どう推移して行くと思われるのか、日本市民は彼らとどうつき合って行けば良いかについての私なりの意見まで、お伝えしたいと思います。

デモ過激化の背景には、中国共産党内部の熾烈な派閥闘争がある!
まず、今回の過激なデモの背景として必ず押さえておかなければならないのは、今、中国が激烈な政治闘争の中にあるということです。しかもその最高潮に達した時期にある。今回の過激デモは決して単純な反日デモではなく、中国内部の政治とものすごく大きな関わりを持っているということを、理解する必要があると思います。

では、今、中国政治で何が起こっているのか。これについて書いてみたいと思います。

私が色々な日本人の方と話していて思うのは、多くの日本人の皆さんは、中国共産党はびしっと一枚岩で一致団結していると思っていらっしゃる。
また、現在の共産党のトップ=総書記であり、したがって国家のトップ(=中国ではその地位を「国家主席」と呼びます)でもある胡錦濤氏が、絶対的な権力を持って党を統率していると思っていらっしゃる。この二つは共に誤解です。
中国共産党上層部には幾つも派閥があり、常に激しい闘争を繰り返しています。また、毛沢東時代とは異なり、現在の最高政治判断は全て会議によって下されています。意外と民主的(笑)なのです。‥しかし、もちろん裏がありますが‥

13億の国を動かすたった9名の人間とは?
さて、この最高政治判断を下す会議を、「中国共産党中央政治局常務委員会」と言います。要するに、共産党の役員会議。普通の国なら国の政治は、選挙によって択ばれた政治家から成る内閣が動かしますが、中国には選挙がなく一党独裁なので、共産党の役員会議で国を動かしてしまっている訳です(恐ろしいことですね‥)。

メンバーは、9名。胡錦濤氏も、震災の時に被災地を訪問に来た温家宝氏も、この常務委員会のメンバーであり、つまり、常務委員です。“チャイナ9”という呼び方がありますが、あれだけの人口を抱える中国を、最終的にはたった9名の人間が動かしているのです。

この常務委員会には、毎月2回開くこと、などといった開催規定がある訳ではありません。何か行政上の問題が生じた時に、その都度召集。そしてあの巨大国の進路が、9名での多数決によって決定されているという仕組みとなっています。

多数決と言うととても民主的で、何だか小学校の学級会のようなほのぼの感がありますが、チャイナ9の多数決。これは世界で最も重い多数決と言えるかも知れません。

さて、この常務委員9名には、序列がつけられています。その序列は、
1)これまでの職務歴
(何省のトップを務めたか。その省の重要度はどのくらいか‥といったこと。日本に例えれば、経済的にあまり規模の大きくない岐阜県のトップを務めていたという実績より、大阪府の知事を務めていた方が評価は上になります)

2)実績
(実際にどんな実績を挙げたか。たとえば、在任中に経済成長を押し上げたとか、犯罪撲滅に成果を挙げたとか)

といった、「或る程度」客観的な評価から成っています。現在、胡錦濤氏が序列1位であるため、共産党の総書記、そして同時に国家主席の地位についているという訳です。

だから、9名の中で胡氏がかなり強い発言権を持っていることはいるのですが、多数決制であるため、常に他の8名と協議・牽制し合いしながら行政を推し進めなければいけない。これが中国政治の実情です。現在の中国の国家主席は、決して独裁的権力を持っている訳ではないのです。

いよいよ今、9人を択ぶ政治の季節
さて、先ほど「或る程度客観的な評価」と書きましたが、ここに大きなからくりがあります。あれだけ大きな国ですから、行政の実務能力がある人間もうようよといる。つまり、常務委員になれそうな人材も多数いるということで、その中で、「誰を常務委員にするのか」という大きな問題が生じるのです。
日本の会社を考えてみて下さい。或る程度大きな会社であれば出世レースというものが展開され、誰が役員になり誰がなれなかったか、その裏にはどんな派閥抗争があったのか‥毎年、人事の季節には社内でひそひそと噂話が飛び交うものです。

これと同じことが人口13億の国家レベルで、中国の常務委員についても起こっています。李と自分は政治信条が近いから李を入れたい。或いは、李なら自分の手足となって動いてくれる人材だから李を入れたい‥現常務委員9名一人一人に思惑があります。

また、常務委員以外の実力者たち‥例えば軍の実力者や、常務委員にはなっていないけれど政治的実力を持つ者長老‥などなどそれぞれがそれぞれの思惑を持ち、派閥を組み、自分たちの推す候補を入れるために離合集散を繰り返す。これが、現代中国政治の真髄なのです。

では、最終的に、どうやって「誰を常務委員にして、誰は入れない」と決めるのか?これは、常務委員会そのものではなく、もう一つ別の会議によって決められます。
では、その会議は一体いつ開かれるのか?これが、今回の反日デモの過激化と大きな関係を持っていると思われるのです。

そもそも、チャイナ9を択ぶ「常務委員決め会議」。ここにはどんなサイクルがあるのか?例えば毎年1度択ぶのか、どうなのか?

実は、そこには、あっけないほど素朴なきまり、「定年制」が存在します。
日本の会社だと、「社長職は70歳まで」と決まっていてもヒゲで三段腹で愛人が五人いる剛腕社長がむりやり社則を変えて、80歳まで居座り続ける、ということもままあります。しかし中国はここでも意外と民主的で、常務委員は70歳まで。5年に1度開かれる党大会の時点で70歳になる常務委員は、たとえ共産党総書記兼国家主席である胡錦濤氏であっても、必ず退場しなければなりません。

実は、今年2012年とは、まさにこの5年に1度の党大会の年。そして党大会は毎回秋に開かれることが慣例となっており、今から1カ月後の、10月後半頃の開催が有力視されています。つまり、次の5年間の中国トップ9人が、10月にお披露目となる訳です。

特に今回は定年を迎える常務委員がことのほか多く、9名のうち7名が退場します。胡錦濤氏も温家宝氏も退場。がらっと入れ替わる新常務委員に誰を押し込むか、で、今年に入った頃から激烈な政治闘争が繰り広げられているという状況なのです。

ところで、この新メンバー、10月の党大会で「発表される」のであって、「択ばれる」のではありません。実は、毎回、党大会に先立つ7~8月頃、北京の北にある北載河という避暑地でわざわざ特別に非公開の会議を招集し、そこに、チャイナ9メンバー、軍幹部、元老、有力政治家が集まり、じっくりと話し合った末に決定を下すのが慣例です。つまり、新メンバーは党大会前に既に決まっているということ。党大会はそれに承認を出すための場に過ぎないという訳です。

今回も、8月前半に国の有力者が北載河に集まり、秘密会議が開かれていました。しかしどうも今年はそこでは決まり切らなかったらしい、というのがもっぱらの評判です。つまり、チャイナ9の椅子取りゲームは今もまだ続いている。非常に非常に不安定な政治状況であり、そこに新たな要素、「反日」というカードが現れた。今回のデモがこうまで過激化した背景には、このような事情があると思われるのです。

「反日」はただの「反日」ではない。極度に政治的意味を帯びている、という事実

ここでもう一つ押さえておかなければいけない基本事項は、「反日」という概念が中国政治においてどのような意味を持っているか、ということです。
中国では政治闘争が激烈化して来た時に、「反日」が踏み絵にされるということがままあります。A派とB派が対立した時に、「自分たちはどの程度反日か」という問題を持ち出して、
「ほら、B派はかつて我が国を侵略した日本に、こんなに媚を売っている。あんなやつらに国の舵取りをする資格はない!」
と攻撃の材料にするのです。実際、ここを突かれて(これだけが原因ではありませんが)転落した総書記が過去に存在します。1987年の胡耀邦総書記のケースです。胡耀邦氏は現代中国の指導者中、最も強く民主化を推し進めようとしていた人物だと思いますが、それに不満を持つ勢力が、日本と円満な関係を築こうとしていた氏の外交姿勢をウィークポイントと捉え、攻撃。失脚へ導く材料の一つにしました。本当の目的は反日ではなく、民主化を遅らせること。そのダシに日本が使われたのです。

日本人は、このことを頭に叩き込んでおかなければいけないと思います。
中国政治にとって日本とは、水戸黄門の「この印籠が目に入らぬか!」の逆バージョン的存在。「反日!」と叫べば誰も異議は唱えられない、正義の御旗です。

小学校から教育の現場で繰り返し繰り返し叩き込まれ、一種の道徳スローガンのようになっていますから、これに表立って反発を唱えることは、今の中国では難しい。特に政治家にとっては最高に難しい。靖国参拝や尖閣諸島問題など、何か中国人のナショナリズムを刺激する行動を日本側が取った場合、もしも穏当に処理しようとすれば、そこを突かれて失脚してしまうかも知れないのですから。

2012年秋、「反日カード」の使い方

そんな中国の、最も政治闘争が最も激烈化している今、この時期に、尖閣諸島の国有化問題が勃発した。これは、例えてみれば戦場でせめぎ合っている魏・呉・蜀の軍勢の上に、空から白い紙がひらひらと舞い落ちて来たようなものです。この紙の使い方次第で敵を攻撃出来る!或いは、下手に使えば敵から攻撃される!

‥そんな状況の中、各軍はそれぞれまず、敵に後ろは見せられません。各派とも、「日本に強く抗議しよう」「全国主要都市でデモを起こそう」「漁船を大量に派遣するなど、ぎりぎり危険なラインまで圧力を掛けて日本の譲歩を引き出そう」で一致。これに反対すれば「売国奴!」「政治家の資格なし!」「あっちの派閥は弱腰外交を掲げてる!」と攻撃され、チャイナ9の椅子取りゲーム闘争で不利になってしまうのですから。

だからこそ、各派、暴走の危険性は分かっていても、デモを容認。
実際、様々な企業や商店に市当局から動員が掛けられ、集合地点で「うちの職場はちゃんとデモをやりました」という証明のために記帳。そしてぐるっと所定の場所をデモ行進。中には終わるとお弁当がもらえる市さえあるとの情報を、私はTwitterで写真付きで見ました。そして市から用意された帰りのバスに乗って、解散。

「中国70か所で反日デモ」と報道されていますが、大部分の都市ではこのようなおつき合いの官製デモがほとんどで、デモが行われている一帯以外では、ごく普通の日常生活が営まれています。動員がかからなかった企業・商店に勤めていれば、情報さえ知らない。「どこでデモをやってるの?」と訊かれるほどだということです。

ただし、デモの情報は、中国の新インフラとなりつつある中国版ツイッター・微博など、オンライン上の様々なサイト、またチラシなどでも呼びかけられていますから、こういった、職場単位で集められた人々以外の参加者も加わることになります。そしてここに、過激行動を取る人も出て来るのです。

政治に利用されてしまう哀しき暴走労働者たち

これまでにも日本でも多くの報道がなされているので中国に興味のない人にもよく知られているように、中国の現在の経済発展は非常にいびつなものであり、強烈な所得格差の犠牲者となった低賃金労働者は、社会への大きな怒りを心の内側にため込んでいます。残念ながらそういった人々の教育水準は高くなく(それは決して彼らのせいではありません)、義務教育で教えられた通りの鬼畜日本人のイメージを持ち続けている。日本人と会ったこともなければ話したこともないので、このイメージが変わりようがないのも仕方がないことなのかも知れません。

それに、実際、何世代か前の親族を戦時中日本軍によって殺された人が多数存在していることも亦厳然たる事実です。

よく、ただにこにこと「日中友好」とこちらが善意を持っていれば全て上手く行くと思っている日本人がいますが、それは全く違う。日本人の多くが何となくロシア人を好きになれないし信用出来ないのと同じように、いやそれよりもずっと強いレベルで、中国の人々のベースに、日本への不信感が存在しています。だから焚きつけられると一気に火が燃え上がってしまうということも、肝に銘じておかなければいけない基本事項の一つです。

ただし、そんな彼らも、中国共産党の弾圧の恐ろしさは身にしみて知っていますから、政府が「デモをしてよし」とお墨付きを出さない限り、たとえテーマが「反日」であったとしても決して率先して過激な行動は取りません。

しかし今回は、上述したように政治情勢不安定な中、政府上層部が「反日」を声高に叫ばなければならない状況です。その御用機関であるテレビも新聞も、しきりに日本を攻撃している。「よし、この波に乗っていいんだな」と労働者たちは判断する訳です。そして現場で興奮して暴れる‥こういうケースが多々生まれているようです。

ただし、このような人々を野放しに行動させることは、やがて解放されたエネルギーが日本から逸れ、彼らを今本当に不幸にしている存在、現在の中国の特権階級、そう、共産党上層部とその周辺へ向かう可能性を多分に秘めています。それを分かっていても、敵に背中は見せられないから、上層部は「反日デモ禁止」とは言えない。恐らく、「或る程度でかい事件が起こったら統制を始めよう」と、各派無言の胸のうちに思ってスタートさせたのではないでしょうか。少なくとも、81年前に満州事変が勃発した今日、負の記念日の9月18日までは、決して厳しい取り締まりは出来なかったものと思われます。

暴動を扇動する「煽り屋」の存在~~五つの噂

ところで、微博に中国人自身が上げている数々の情報から、各地の暴動では、時に明らかに扇動者と見られる人物がいることが分かっています。
例えば西安では、「日本車をひっくり返せ!」と扇動する男性がおり、この人物が市の警察職員であることが確認されています。(下記URL参照)
http://ameblo.jp/capitarup0123/entry-11358323933.html
また、私は、北京で、日本大使館の前でシュプレヒコールを挙げていた人物が、「前に別の事件の時に接触した公安の人間だ」、とつぶやく書き込みも見ました。

組織された官製デモ。暴発する貧困層。この2要素の他に、明らかに、政府上層部の指示で煽り役として送り込まれている人間がいる。青島では日本のスーパーが大略奪に遭いましたが、もしかしたらこのような大暴発の背後には、導線役となる人物がいたのかも知れない、と思わされます。

では、彼らは一体何者なのか?誰の差し金でこのような扇動者の役割を果たしているのか?現在、ネット上では中国発・日本発で様々な情報が飛び交っています。真偽のほどは分かりませんが、一つ一つ見て行くことで現在の中国の政治情勢が良く分かるので、ここで短くご紹介してみたいと思います。

まず、第一の説は、胡錦濤主席や温家宝氏が所属する「団派」と呼ばれる派閥が仕掛けている、というものです。
団派とは、実務能力に優れているために中央にのし上がって来た実力派集団で、大きくは、中国の民主化を目指し、縁故で地位や金が回る現在の腐敗体質を何とか清浄化しようと頑張っている集団とされています。

外交も協調路線を目指しているため、いつも「日本に弱腰だ!」と非難されているくらいなので、反日デモを過激化させるはずはないのですが‥政権闘争のこの時期、弱みを見せないために敢えてデモを先鋭化させ、「どうだ、この時代に過激な愛国一本槍で行くとこういう結果を招くんだ」と他派に牽制をかけている、という説。

或いは、幾つかの地域でデモを過激化させて日本をびびらせ、尖閣問題において少しでも譲歩を引き出して成果を挙げる。その成果によって常務委員決めの椅子取りゲームを有利に進めようとしている‥という見方も出ています。

第二の説は、一代前の国家主席・江沢民氏を長とする「上海派」が仕掛けている、というものです。この派閥は現在の椅子取りゲームで劣勢に立たされているため、敢えて混乱を引き起こして団派の長である胡錦濤氏が舵取りに失敗したところで、一気に攻勢に転じようとしている、という見立て。

三つ目の説は、序列が高く次期主席に内定している習近平氏とその周辺の「太子党」が仕掛けている、というもの。
太子党とは「二世グループ」くらいの意味で、父親、或いは祖父が共産党革命の貢献者だった人々、つまり党幹部の子弟たちのことです。共産主義とは本来平等社会の建設を目指したはずですから「お父さんが偉かったから子どもも出世」という現象は有り得ないはずなのですが‥残念ながら現在の中国にはこんな人は大勢います。

太子党・上海派、共にその地位を利用して蓄財に走る傾向が強く、利害関係が一致することも多い。両派は混然となって存在しており、現在、団派に押され、習氏たち二世軍団も劣勢に立たされています。次の5年間、一人でも多く自分と共同歩調を取ってくれる人間を常務委員会に入れるために、習氏自ら混乱を引き起こして団派の失点を狙おうとしている、という説です。

また、今回、幾つかのデモにこんな横断幕が現れて人々を仰天させました。
「薄書記快回来!(薄書記、早く帰って来て!)」
この「薄書記」とは、この春に失脚した重慶市のトップ・薄熙来書記のことです。賄賂授受に絡んでその妻がイギリス人実業家を毒殺していた事件は、日本でも大きく報道されました。

こんな薄氏は、賄賂にまみれまくっているので全く清貧な人物ではないのですが、チャイナ9入りを目指して重慶で行った政策は、貧しい人に団地を与える、国が北朝鮮状態だったために全員が貧乏だった60年代の革命ソングをみんなで合唱して、平等だった昔を回顧する‥といったパフォーマンス政策。これが、資本主義化した現在の中国を苦々しく思う共産主義原理主義の人々の支持を集めています。

今回のデモでは、幾つかの地域で毛沢東の肖像画が登場したり、それどころか、何と60年代の文化大革命当時の服装でデモをする人々まで現れました。現状に不満を持つ彼ら原理主義系の人々が、今回の反日デモに乗じて混乱を引き起こし、一気に薄熙来復活を狙っている‥ということもあり得ないとは言えないと思います。彼らの扇動により過激化した地域も幾つかはあったのではないでしょうか。

また、もう一つ、軍の中の急進派が関与しているのではないかという説もあります。
中国に限らずどの国でも、軍や軍需産業界は規模の拡大を狙うものであり、一瞬即発で軍事衝突‥といった事態が起こることは、軍の発言権を増し、予算の拡大につながる喜ばしいことです。
また、これも中国に限らずどこの国でもそうですが、軍の中には過激な軍国主義者がいるものです。彼らがデモを過激化して日中関係を悪化させ、勢力拡大を狙っているということも、また、それによって自分たちに近い候補者を常務委員に入れることを狙っていることも、十分考えられるように思います。

以上、ネットで囁かれている「反日デモ暴徒化の煽り役探し」、五つの説をご紹介しました。

色々な方から質問されるので私自身の考えを述べれば、胡主席や次期主席である習氏は平和な政権移行を通じて自らの権力を高めることを目指していると思われ、不確定要素を増やすだけの暴力的混乱は望んでいないように思えてなりません。

軍の一部や、上海派、共産主義原理主義者たちが互いにばらばらに暴動引き起こしているのではないかという気がしますが、もちろん、私は新聞記者でもないし学者でもないので、あくまでネット上で収集した情報と、中国に住む日本人・中国人の友人からの情報をもとにしての推測です。今のところ、中国政治専門家の方々の間では、「胡主席首謀説」が優勢のようではありますが、恐らく真実が見えて来るのはしばらく経ってからのことになるでしょう。

反日中国とどうつき合うか?(1)

とにかく、言えることは、日本という存在は中国政治においてスケープゴートにされやすいということ。全くこちらからすればいい迷惑ですが、これはもう仕方がないことだと受け入れるしかないのだと思います。それを基礎とした上で、日中関係の進め方を考える。この姿勢を持たなければいけないのだと思うのです。

例えば、中国で政争が起こっている時には、無難にじっと“やり過ごし系”の応対をするべきではないでしょうか。何故ならば問題の本質と関係ないところで「反日」がカードとして利用され、事態がどんどん複雑化することになってしまうからです。‥まあ、まさに現在がこの状態である訳ですが。

そして、過激な反日行動の裏には多くの場合、何らかの政治勢力の意志が存在し、それに煽られて過激化してしまう一部市民がいる、という事実。これも“中国リスク”として肝に銘じておくべきでしょう。

このように書くと一部の盲目的な日中友好派からは「嫌中を煽るようなレッテルを貼るな」と言われてしまいそうですが、日中関係を本当に改善して行くためには、今ある事実を直視するところから始めなければいけないと私は思っています。
中国人のベースには、反日感情がある。これは厳然とした事実です。しかしそれがすぐに発火しやすい人と、理性によって、過去の日本人と現在の日本人を分けて考えている人も存在する。日本人がやらなければいけないことは、これら理性的な人と太い信頼のパイプを作り、理性的な意見が主流となって、煽られやすい人々に論戦で勝てる下地を作り出すことだと思うのです。

中国の希望 理性的市民

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説明を追加
上の写真は、今回のデモの際に北京で撮られたものです。彼女が掲げているスローガンを訳したので読んでみて下さい。

「私たちは戦争を、地震を、水害を乗り越えて来た。
ここはファシストの土地ではなく、私たちの土地。
暴力によって築き上げたのではない。

そう、ここはもう文革を行う場所ではない。
この土地で開かれた平和の祭典・オリンピックを全世界が見つめた、
その場所ではないか。
暴力を停止しよう。
私は知っている。私たちの祖国はかつて愛にあふれていたことを」

この写真に限らず、微博上には、暴力行動の停止や話し合いによる解決を促す意見・写真が多数掲載されています。広州の日本領事館が入るビルがガラスを割られるなどの被害を受けた跡を、自主的に掃除に来た中国人の学生たちもいました。

私たち日本人は、中国人の中に、短絡的に暴力に走る一群の人々がいることを認め、それについては自衛をして行くしかないでしょう。しっかりと負の面に目を向けない限り危機が予測出来ず、正しい自衛も出来ない。自衛出来ていないことで新たなトラブルに巻き込まれ、そのトラブルが更に日中関係を悪化させる。そのことを肝に銘じるべきだと思います。

しかし一方で、中国人全員が同じように粗暴だと思い込むことも、明らかな事実の誤認であると思います。暴動を扇動した人々のことを、「権力の手先になって暴力を煽り、中国の対外イメージを決定的に貶めた」と憎み、また、実際に破壊や略奪行為をした人々のことを「政治の道具に利用された脳の足りないバカ」と罵倒する多くの人がいることを、心に留めておいて頂きたいと思います。
                  
反日機運、今後の展開

今後、日中対立はどう推移するのか?
私の考えでは、今日、満州事変記念日の918以降は、デモは引き締め傾向に向かうのではないかと思っています。10月後半の党大会を無事に終わらせるために、そろそろ「市民はいい子にしててね」と、厳しく管理する局面に入る、ということです。

団派、上海派、太子党、軍、共産主義原理主義者‥いくら派閥闘争をしているからと言って、彼らの力の源泉が共産党一党独裁にあることに変わりはありません。党の権威を失うような混乱は避けたいはずで、そろそろ大会に向けて落ち着いた雰囲気作りが求められているのではないか?と思うのです。
一方、尖閣諸島周辺への漁船と漁船監視船の派遣は、党大会まで、或いは党大会終了も五月雨式に続くのではないか?と思っています。

理由は、一つには、この威嚇航行によって日本政府から何らかの譲歩を引き出せないかという思惑もあるだろうし、また、デモ容認と同じく、敵に背中を見せないためのパフォーマンスとして、各派とも強硬姿勢を支持している、ということもあるのではないでしょうか。実際に監視船団が尖閣諸島の周辺を航行することで、愛国主義者の溜飲が下がることも計算に入れているのではないかと思います。

それにしても気になるのは、党大会がいつ開かれるのか、ということです。
予定日まで1カ月程しかないのにまだ日程の発表がないのは異例のことであり、やはり相当深刻な駆け引きが繰り広げられているのではないでしょうか。今月初め、習氏が2週間も姿を見せなかったことも、異例としか言いようがありませんでした。

反日中国とどうつき合うか?(2)

このような状況下、日本人がまずしなければいけないのは、これまでと同様、在留中国人に暴言や暴力行為を行わないことだと思います。品位の差で世界の世論を味方につけることは絶対に必要であり、また一方、中国人は非常に面子を気にする民族なので、もしもまだ暴力行為が続く場合は、YoutubeやTwitterなどでどんどん世界に向けてその画像を拡散させ、面子を失わせた方がいいと私は考えています。「暴力行為は国の恥になる」と、労働者層、そして労働者層を利用しようとする上層部まで身にしみて認識してもらうことが、今後の日本人の安全確保につながります。また、多くの理性的な中国市民がまっとうな意見を発信するための、援護射撃にもなると思うのです。

私は、今後、中国に対して「ここから先は絶対に譲れない」というラインをはっきり告げることが何より大切だと思っています。以前に別のエントリーでも書きましたが、中国人は交渉の民族です。だから尖閣問題に限らず、どんな場合でもまず必ず吹っかけて来る。それに一々動揺せず、どこからが譲れないラインなのかをはっきりさせることが、交渉の第一歩だと思うのです。

もちろん今回の尖閣諸島問題の場合は、これを中国の領土とすることなど有り得ない訳ですから、ここが絶対のライン。これを越えたらアメリカと組んであんたんとこと戦争だよ!ということを、はっきり告げることです。政府のレベルでもそうだし、民間のレベルでも、もしも尖閣が話題になったら――あくまで理性的にではありますが――この話をするべきだと思っています。

もちろん、日本人のほとんどの人が戦争をしたくないように、中国の大部分の人も戦争など望んでいません。しかし、ただ日中友好とにこにこ笑っていれば戦争暴発の危機がなくなるというのは、ちょっと違うと思うのです。こちらに相応の力と覚悟があってこそ、初めてお互いの力が拮抗する。そして、最悪の事態を避けようという力学が働く。それが中国人とのつき合い方の要諦だと、私は確信しています。

私は、今後、もしも尖閣沖で両国の監視船が接触するなど不測の事態が起こった場合、最終的にはアメリカか、或いはロシアなど近隣の大国に仲介に入ってもらい、調停交渉をするしかないのでは?と思っています。その上で、「アジアの安定のために」という誰もが納得するお題目を掲げて、両者棚上げをはかる。これが最も妥当な道なのではないか、と。そのためにこそ、絶対譲れないラインを強く主張しなければならないと思っています。

これからの中国ビジネス進出

中国ビジネスについては、日本企業は、今後、中国リスクを真剣に考えるべきだと思います。年間予算の中に「店を破壊された時の修繕費」を入れておく(理不尽ですが)くらいの、冷静な予想と覚悟がなければ進出しない方がいい。
また、「先進国日本から来ました」的などこか偉そうな気持ち、或いは物見遊山気分で駐在するのではなく、いざという時に自分を助けてくれる人、また、冷静な意見を提出してくれる人、そういう自分の味方、日本の味方を作れるような国際マインドを持った人材、本気で向こうの人と交われる人材でなければ、今の中国にのこのこ出て行くのはあまりにもリスクが大き過ぎるのではないでしょうか。

それでも、あの広大な大地で勝負してみたいという冒険スピリットの持ち主はいるだろうし、あの巨大な人口もビジネスの観点からはやはり魅力的でしょう。リスクは覚悟した上で出るのか出ないのか。これまでの日本は「品質」という一点で中国市場で勝負して来ましたが、今後はアップルのように、何があってもやっぱりあの商品を持ちたい!というブランドキャラクター作りをすることも必要になって来るのかも知れません。

もちろん、海外に出て行くということは、今平穏な国であっても一度不況期に入って社会が不安定になれば、「今まで低賃金でこき使いやがって!」と、外資は常に敵対視される危険性をはらんでいます。どの国に出るにしてもリスクはある訳ですが、今後も尖閣問題の落とし所が見つけられない限り、また、片づいたとしても潜在的に反日感情がある国ではいつまた不買運動や過激デモが起こらないとも言えず、日本人にとって中国は最もリスクが高い国になった。そう言わざるを得ない状況だと思います。

絶対絶やさない、民間交流の灯

私自身は、16年前に中国に興味を持ち、以来、何度も日中関係の冷え込みを経験して来ましたが、それでも今日この時に至るまで、「中国っておっもしろい国だなー」という中国愛は1ミリも変わっていません。もちろん私だって今回のような暴力行為は許せませんし、そのような行為を働く中国人は大嫌いです。ぬくぬくと私腹を肥やす腐敗官僚も、そもそも共産党の一党独裁も最悪のシステムだと思っています。でも、それが全てではなく、その裏側に豊饒に存在している中華世界の面白さに魅せられているから、やっぱり中国愛は変わることはありません。

そもそも私が中国語を学び始めた頃は、中国の経済発展など夢にも考えられない人がほとんど。「何故遅れた国の言葉を勉強するのか?」と真顔で訊かれることもありました。お金儲けをしたいから学んだのではなく、ただ好きだから学んだのであって、だからまた関係悪化の時期が来ても、淡々とこれまで通りの中国愛を貫いて行くだけです。

でも、実利を求めて中国に出た/或いは出ようとするのなら、先ほど書いた通り潜在的に反日の国ではまた今回のようなことが起こる可能性は十分にあり、相当な覚悟を持たないとやって行けない時代に入ったのではないかと思っています。築き上げたものをあっと言う間に失うかも知れないし、それでもまたぼちぼち立ち上がれる根性がなけれなならない。そんな覚悟を持つのは大変なことだろうと思います。

それにしても、大体において、国と国との関係が100%友好になる必要などないと私は思っています。ビジネスの場を考えても、同僚や取引先と、大して気も合わないし趣味も合わなくたって、それでも何とかプロジェクトは進んで行きます。いや、仕事なのだから、進めて行かなければなりません。ビジネスの上での適当な関係さえ築ければそれで十分なのであり、全人的な交わりなどなくても良い。

日中両国も、何とか今回暴発を回避して落とし所を作り、大部分の国民が互いに「あいつら何か気に食わない」と思いながらも、でも「戦争やるのもバカらしいしね。仕方ねえ」と、渋々つき合って行く。そういう所へ持って行く妥協案を探るべきだと思っています。そしてそれはきっと出来るはずだと思うのです。何故なら中国とロシアだってすわ戦争かと言うほどの犬猿の仲だったのにも関わらず、今ではそこそこの関係を築けているですから、日本と中国にだってやれないことはない。そしてごく少数の、それでもまだ中国大好き!日本大好き!というお花畑人間たちだけが、ラブラブ日中交流を続けて行けば良いのでは、と。

正直言って、中国など好きになっても損なことばかりです。日中関係で何かあるとまるで中国代表のように扱われ、上司やら同僚やらから敵意に満ちた言葉を投げかけられたことも何度もありました。それでも、やっぱり私はあきらめられません。そして、同じように絶対あきらめないだろうなという日本人の友人を、何人も知っています。

全員が門を閉ざしてしまったら、中国はますます偏狭な愛国主義に陥ってしまう。今回のように危機的状況が起こった時に、裏からお互いの妥協点を探るための交渉役もいなくなってしまう。私のようなバカ者たちがいくら損をしてもまた出かけて行って友情を育むからこそ、少しずつ空気も変わって行くのだと信じています。

ふだんしょっちゅう着物を着ていることからも分かって頂けるように、私は大の愛国者でもあります。大体において、愛国だの日本の素晴らしさは云々かんぬんだのと声高に叫ぶ日本人ほど、和食を食べる以外何一つ自国の文化を知らず失笑もののことが多いのですが、歴女で華道茶道を学び日本美術に子どもの頃から触れて育った着物き〇がいの私が、でも、中国も好きなのです。私は、中国の民主化は、愛する祖国・日本の防衛に必ず役立つと確信しています。もちろん一人一人の力はあまりにも小さいけれど、その一つ一つの風穴なくしては、中国に真に自由な空気が入り込むこともない。尖閣沖をパトロールする海上保安庁の皆さんのご苦労を想いながら、何とか暴発が避けられることを願い、そして、何度目かの「あきらめない」という言葉を思い浮かべる、満州事変81周年の今宵です。