2012/03/09

解明を待つ川越八幡宮の古文書と不二庵不二丸

『川越の文化財』#110号(2012年)

「解明を待つ川越八幡宮の古文書と不二庵不二丸」
 桑原政則

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  川越八幡宮の展示室には、芥川賞、直木賞全作品が陳列されている。
地元関係のコーナーもあり、他では見られない松平信綱、柳沢吉保の掛け軸、橋本雅邦の絵も展示されている。

さらには、古流生花および俳句の師匠でもあった榊原治賢(はるかた)の膨大な遺品もあり、解読を待っている。

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  2011年9月に南通町の川越八幡宮に展示室が完成した。
榊原茂・第15代宮司が集めた芥川賞、直木賞の全作品が展示されている。
初版本がすべてそろっており、帯付き、サイン入りの貴重書もあり、文学ファンの関心をよんでいる。

  地元関係の展示コーナーもある。
「みよしのや  徳川風の 吹くからに すすきと共に なびく武蔵野」と歌う松平信綱の直筆の掛け軸も見られる。
隣には、柳沢吉保の掛け軸が並ぶ。橋本雅邦の絵なども、ここでしか接し得ない。


  川越八幡宮第9代宮司の榊原治賢(はるかた)は、生花や俳句に関心が深く、江戸へ修行に出かけ、両方の師匠の免許を得た。

  古流生花の門人目録、教材も展示されており、天保9年(1838年)の年号が見受けられる。
榊原治賢の門人はすべて男性で、時代風景がうかがえる。

  俳句コーナーには、不二庵不二丸(ふじあんふじまる)が収集した松尾芭蕉直筆の掛け軸もある。
不二庵不二丸は、芭蕉の流れをくむ岡田氷壺(ひょうこ)の弟子である。
ここには句会の目録、作品など約百点が並べられている。
不二庵不二丸は、句会を盛んに催し、作品を記録し、彫り物、額にして奉納したりした。
俳句が生活に密着しており、当時から川越では俳句が盛んであったことがしのばれる。

  ところで、不二庵不二丸とは、実は宮司の榊原治賢であった。
このことが分明でなかったために、不二庵不二丸は川越の文化史に現れてこない。
展示館には陳列されていない古文書もあり、古文書と共に不二庵不二丸の解明が待たれる。

見学の申し込みは、049-222-1396へ。

(榊原茂宮司に取材協力を謝します。桑原政則)

【追記】
榊原治賢は、1813年(文化10年)12月27日に生を受け、1900年(明治33年)4月27日、満87歳で没しました。

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【メモ】

  • 芥川賞、直木賞の歴代全受賞作の初版本を展示
  • 「文学ファンが川越に足を運んでもらえるきっかけにしたい」
  • 展示室では、温度は20度、湿度55度で保管。
  • 日本に5冊しかないものも。にせものあり。 400万円したことも。
  • 満州で発行のものも。小尾十三の『雑巾(ぞうきん)先生』は、旧満州にあったものを取り寄せた。
  • 古書収集は古書市で初版本を見てから。
  • 帯付きを見つけるのがむずかしい。 
  • 芥川賞の文学館は山梨県文学館、高松の菊池寛文学館にも。 
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  • 榊原治賢(俳号:不二庵不二丸)は 9代、 今は15代。
  • 句会は、建前や神社開きの時に募集。
  • 彫り物、額にして奉納し、記念に残す。生活に密着していたことがわかる。
  • 古流生花の弟子は男性のみ。
  • 天保9年  11年  13年  門人目録も