2012/08/24

せき、のどに違和感続く… 胃食道逆流症かも(NK2012/8/24)



続くせき、のどの違和感… 胃食道逆流症かも

放置すれば生活の質低下

 のどがいがらっぽく、しつこいせきが出る。夏風邪か、ちょっと疲れが出た程度だろうとたかをくくってはいけない。胃酸や食べた物が逆流する胃食道逆流症かもしれないからだ。ぐっすり眠れない、虫歯になりやすいなど、無関係にみえる症状が実は病気の進行を示している場合もある。薬で治せるので自分で大丈夫だと決めつけず、早めに受診したい。
胃酸の逆流で炎症を起こした食道(45歳男性)=東京警察病院の鈴木剛消化器科副部長提供
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胃酸の逆流で炎症を起こした食道(45歳男性)=東京警察病院の鈴木剛消化器科副部長提供
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 「コンコンと乾いたせきが続く」「のどに桃や梅干しの種がつかえた感じがする」。国際医療福祉大学東京ボイスセンターの渡邊雄介センター長はこうした症状を胸やけに対して「のどやけ」と呼び、胃食道逆流症を疑う。原因不明のせきが続く患者の約2割はこの病気という。
食事の欧米化背景
 胃食道逆流症の典型的な症状は胸やけやげっぷだ。消化器内科が専門の慶応義塾大学の鈴木秀和准教授は、「みぞおち付近から熱さが上昇してきたり、胸骨の下を熱いものが動いたりする感じ」と説明する。国際医療福祉大の渡邊センター長は、のどの不調でやってきた患者の多くに「胸やけはないですか」「げっぷが増えていませんか」などと聞く。すると「そういえば」と初めて気付く人がかなりいるという。
 胃酸が上がってくる原因はいくつかある。一つは胃酸の分泌を促す脂肪分や糖分、たんぱく質などのとり過ぎだ。胃食道逆流症は食事の欧米化とともに増えたといわれる。1970年代には日本にほどんど患者はおらず米国や英国に多い病気と考えられていたが、いまでは「日本と米欧で差がなくなった」(慶大の鈴木准教授)。調査人数に対する患者の比率(有病率)は20%近いとの報告もある。
 もう一つは肥満、高齢者に多い猫背などによる腹部の圧迫や、胃袋が横隔膜の上まで上がって開いた状態になる「食道裂孔ヘルニア」によって引き起こされるケースだ。さらに、実際に逆流は起きていないのに食道の近くが過敏になり症状を感じる「機能性疾患」の場合もある。メタボリック(内臓脂肪)症候群や心の病の増加、高齢化の進展などと胃食道逆流症の増加は連動しているという。
 胃酸がのどまで逆流してくると、せきや声がれが起きる。気道に入ればぜんそくのような症状が出る。寝ている時などに口まで上がると酸っぱさや苦みを感じる呑酸(どんさん)の症状が出る場合が多く、息も臭くなる。眠りが妨げられることも多い。歯が酸にさらされる結果、虫歯が悪化しやすくなることもある。水を飲んだりうがいをしたりすれば酸が流れるので、すっきりしたように感じる。
 すぐに命に危険が及ぶわけではないが、生活の質(QOL)は大きく低下する。患者自身に不快なだけでなく「労働生産性の低下にもつながりかねない」(鈴木准教授)。放置して胃と食道の境目付近で「バレット食道」と呼ばれる異常が起き、数年から数十年のうちにがんになる例もまれにある。的確な診断と早期の治療が大切だ。
治療薬9割に効果
 東京警察病院の鈴木剛・消化器科副部長の診断を受けた45歳の男性は、胸やけが治まらないといって病院を訪れた。問診の結果、胃食道逆流症が疑われ、内視鏡検査で確定した。肥満や高齢でなくても、「この年代の男性は働き盛りで帰宅が夜遅く、夕食をとる時間も遅くなりがち。そのうえ朝早い場合も。不規則な生活が発症につながる」と鈴木副部長は警鐘を鳴らす。
 胃酸は空腹を感じるタイミングで分泌し、食べ始めると量が増える。食べ物が小腸に移ると止まる。しかし深夜に食事してすぐに寝ると消化する活動が弱まり、胃に残った酸や食べ物が逆流しやすくなる。このため、食事は就寝よりも3時間以上前に済ませるのが望ましい。
 生活習慣を見直せればよいが、個人の都合で残業をなくしたり仕事時間を変えたりするのは難しい。治療では、プロトンポンプ阻害剤(PPI)という薬を処方するのが一般的だ。この薬は、胃壁の細胞に存在し胃酸を分泌するプロセスの最終段階で働くプロトンポンプに結合して分泌を抑える仕組み。「約9割の患者で症状が完全に消える」(警察病院の鈴木副部長)
 受診する時間も惜しいからと、酸を抑える市販の制酸剤を服用する人も多いが、PPIに比べ効果が長続きしない場合が多いという。症状をしっかりと抑え込むには医師の診断を踏まえ、PPIの処方を受けるのが望ましいと多くの専門家は指摘する。
 症状の出方には個人差があるので、人間ドックで初めて病気がみつかる場合もある。長引く乾いたせき、声がれ、胸やけ、胃もたれ――。最近は消化器を専門としない医師の間でも、こうした症状の多くが胃食道逆流症によるという認識が広がってきた。気になる症状があれば、かかりつけ医に、胃食道逆流症の可能性について聞いてみるのもよいだろう。
(編集委員 安藤淳)
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