2017/09/18

なぜ自由と民主主義を掲げる「海の国」が抑止力を持つことを、危険だと決めつけるのか 宇都宮尚志

なぜ自由と民主主義を掲げる「海の国」が抑止力を持つことを、危険だと決めつけるのか 宇都宮尚志


 ドイツの政治学者、カール・シュミットは「世界史は陸の国に対する海の国の戦い、海の国に対する陸の国の戦いの歴史である」と述べた。

 地政学的な考察からすれば、日米など「海の国」は開放的で自由主義を重んじ、同盟関係を重視する傾向が強いのに対し、中露など「陸の国」は排他的で専制主義だとされる。

 北朝鮮をめぐる日米韓と中露の対立は、まさしくこの構図を映し出した。

 中露には、北朝鮮を“先兵”にして米国にアジアからの撤退を迫り、日米韓の分断を図る狙いが根底にある。このため北朝鮮の崩壊を望まない。国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議案が採択されたが、中国は最後まで石油の全面禁輸には応じなかった。

 日米は北朝鮮包囲網を構築するため、今こそ国際社会と連携を強めることが重要だ。その意味で、日本が同じ「海の国」である英国と安保協力を進めることになったのは意義深い。

 8月末、北朝鮮が中距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験を強行した直後、メイ英首相が訪日。「安全保障と繁栄のパートナーシップを次の段階へと引き上げる」と謳(うた)った共同文書を発表し、日英関係を「準同盟」に位置づけた。


 1902年に締結された日英同盟で英国の後ろ盾を得た日本は、日露戦争に勝利し、第一次世界大戦では連合国側に立って参戦、青島や南洋諸島のドイツの拠点を攻略した。

 外交官だった岡崎久彦氏は常々、「近代史の上で日本国民が真に安全と繁栄と自由を享受したのは、日英同盟の20年間と日米安全保障条約の時代である」と指摘し、海洋を支配する「アングロ・アメリカン世界」との連携の重要性を説いた

 かつて英国が七つの海を制したのは、強力な海軍力と外交力、自由を重んじる理念があったからだ。

 その英国は米国との「特別な関係」を通じた核保有国である。国内で核戦力削減の声が高まる中、英下院は昨年、同国が保有する潜水艦発射型戦略核ミサイル「トライデント」の更新を可決した。メイ首相は「ロシアと北朝鮮の脅威から英国を守るだけでなく、同盟国や世界にとって重要だ」と述べ、核抑止力を維持する姿勢を明らかにしている。

 日本は英国との結びつきを通じて、その国際感覚とグローバルな戦略的思考を学ぶべきである。

 北朝鮮の急迫した脅威を前にしながら、政府は「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則にこだわり、核保有を議論することすらタブー視する。

 朝日新聞は社説(8日付)で「日本が非核三原則の見直しに動けば、韓国、台湾も核を求めて動き出す『核ドミノ』の発火点にもなりかねない」と主張するが、なぜ自由と民主主義を掲げる「海の国」が抑止力を持つことを、危険だと決めつけるのか不可解だ。われわれを威嚇し、秩序を壊そうとしているのは「陸の国」の方ではないか。

 英国は「自由主義のルールに基づき国際秩序を守る」ことを安全保障の軸に据えている。この価値を共有して、「海の国」の結束強化につなげなければならない。(論説委員)

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